【書評】融けるデザイン

 

「融けるデザイン」を献本いただいたので、遅ればせながら書評を書かせていただきました。  

 

融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

 

 

“ハード × ソフト × ネット 時代の新たな設計論” とのことで、まさにこれからのデザインについてデザイナー、エンジニア、生態心理学者とさまざまな切り口から深く論考されています。

 

UI / UX の話しに始まり、脱メタファとなるフラットデザインや、これからの IoT 時代のデザインまで、時にハイデガーギブソンを引用しながら、とても示唆に溢れた内容でした。

 

※ここまで書いて、真面目に話すと固くなりそうなので、思い切って漫画にしてみました。(実際の本はとても読みやすいです)

 

f:id:theodoorjp:20150224113102p:plain

 UI /UX を語ると論争が起こりやすいが、「道具が透明化されると、身体が拡張される」という体験の説明は、とても腑に落ちました。

 

f:id:theodoorjp:20150224113058p:plain

IoT や VR(Oculus Rift)など、これからのデザインについてしっかりと言及。"2D + 動き = 3D" とは?

  

f:id:theodoorjp:20150224113101p:plain

これからの世の中、メディアはインターネットにより、色々なインタフェースを持つ形態に。"デザイナーにデザインを任せるのはもったいない。そしてプログラマーにプログラムを任せるのはもったいない。" その時のデザイナーの仕事とは?プログラマーの仕事とは??

 

 個人的には、今までデザインについてなんとなく理解していたことや、疑問に思っていたことをしっかりと順を追って説明してくれているところが、とても良かったです。手元において、たびたび読み返すことになるであろう内容でした。

 


未来のデザイン / エンジニアリングのあり方に、興味のある方は必見の内容です!

融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

 

  

 

独立して 1 年の振り返り

 

「そろそろ独立する頃合いだと思うので、独立します」という、濁りなくノープランな独立をしたのが 4 月。独立することはその半年以上前から調整を始めていたものの、いろいろと忙しく、結局これといった計画性のないまま、セオ商事がスタートしました。(このような状態から始まって、今日まで楽しく仕事ができたこと、お世話になった方々に心より感謝します)

 

 

「独立して、今まで出来なかったことをやろう」と漠然と考えていたのですが、幸いにも今年はそのような経験を多くすることができました。

 

 

今まで薄々と感づいていたことに「何かをつくる一歩手前の、新しい知識や技術を身につけている段階が一番楽しい」というのがあるのですが(新しい知識を身につけるゴールに、アウトプットがあるイメージです)、そのような気分でアウトプットというよりは、しばらく何かをインプットすることを増やそうと思いました。

 

 

そのような訳で、今年は何を経験 / 勉強したかということをリスト形式でまとめてみました。

 

 

1. フルスタックエンジニアを目指す

 

f:id:theodoorjp:20141231150510j:plain

Spy Camera!

 

Olympus さんの新しいカメラデバイス OPC Hack & Make Pilot Project!! に参加して、前から作りたいと思っていた遠隔記念撮影のシステムを作りました。サーバサイドと html / js という自分がずっと苦手意識を持っていた分野に挑戦することができました(今までその二つを避けていたから、FlashiOS、企画などのスキルがついた気もする)。なんとか助けを得ながら作ることができました。

 

最初は heroku + Node.js と、カッティングエッジなスタイルで作ろうとしたところ挫折。結局、さくらレンタルサーバ + PHP な構成に。基礎から始めるのが大事だと思いました。

 

これでフルスタックエンジニアと呼んで良いかはさておき、来年、バージョンアップしてどこかで一般にお披露目したいと思います。

 

普段の仕事ではフラットよりのデザインで進めることが多いのですが、このプロジェクトはいつもと違う形で、イラストレーターと仕事をしてみたいと思い、Shiori Clark さんにお願いしました。

 

システムやサービスも、もう少し本の装丁をするように個性的なデザインが出来ればと思っているのですが、結果には大満足でした。

  

 

2. バイオアートに挑戦する

 

f:id:theodoorjp:20141231150600j:plain

 

3331α Art Hack Day 2014 というイベントがありまして、バイオアートのチームに参加しました。始めて入る生物系の研究室。勉強で読んだバイオパンクという本がとても面白かったです(バイオベンチャーの盛り上がりと熱気をようやく理解できました)。DNA の塩基配列にデータを保存して読み出す、という実験プロセスをアート作品として制作したところ、Loftworks 賞をいただくことができました。引き続きバイオ関係は何かやってみたいと思います。

 

バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!

バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!

 

 

 # 来年、arduino と LED を使ったインタラクティブ表現を抜いた、簡易版の展示ができそうです。

 

 

3. 量子力学を勉強する

 

f:id:theodoorjp:20141231150552j:plain

 

量子コンピューター実用化のニュースで盛り上がり、お世話になっている方に量子力学勉強会を開いて頂きました。今後 10 - 20 年を見据えて、量子コンピューターや通信の技術が発展することを考えると、今の内に理解できると面白いかなと思って勉強を始めたけれど、あまり時間が取れず...。シュレディンガー方程式を解けるようになるのを目標に、来年も勉強したいと思います。

 

 

4. SF 小説を書く

 

仕事の流れもあり、量子力学の勉強でお世話になった方に AI について色々と伺うことができました。その勢いに乗って AI + 量子コンピューターな短編を書いて、星新一賞に応募。(発表は 3 月。入賞しないかなぁ、、)

 

AI については、来年ちょっとした告知ができそうです。

 

 

5. ワイヤーを大量に書く

 

ウェブからアプリまで、かなり大量のワイヤー(画面設計書)を書きました。企画から設計までのお仕事が、今年は一番多かったです。これだけの量を書くと色々と発見があって、来年はその知識をもっと体系化できればと思います。

 

 

6. ユーザテストを真剣に行う

 

デザインができた状態でのユーザテストということを、今まであまりやってこなかったのですが、今回は予算のある案件で色々と試すことができました。デザインまでの工程でしっかりユーザテストをすると、実装後の手戻りが少なく、最終的な実装コストが下がることなど色々と体験できたので、来年は引き続き色々な手法を試してみたいと思います。

 

 

7. Swift を覚える

 

arc が出たところで満足していたのですが、やっぱり書きやすくて効率が良いですね。(コンパイルに時間が少しかかるけど、、)

 

 

8. 人前で話す

 

Romo というロボットガジェットのハッカソンの企画をさせて頂いたり、その流れで gihyo.jp に記事を書いたりしていたのですが、TechLion というイベントで話しをさせていただきました。大学の教授と一緒に話すのはとても楽しかったです。

 

(話し好きな割には人前で分かりやすく話す能力がまるでないので、話し方教室に通うべきかと、真剣に悩むきっかけにもなりました) 

 

 

9. ブレストワークショップ

 

前職でもやっていたブレストワークショップ(クライアントと、企画をブレストのワークショップ形式で行う手法)。独立後もいくつかオファーをいただくことができました。今年読んだ本で「デザインコンサルタントの仕事術」という本がとても勉強になりました。

 

デザインコンサルタントの仕事術

デザインコンサルタントの仕事術

 

 

 

10. フリーランスのチームに入る

 

Romo 案件をはじめ THE GUILD のメンバーとして、色々な仕事をお手伝いさせていただきました。おかげさまで最終的に、セオ商事 / THE GUILD それぞれ半分ずつという感じで、なかなかバランスの良い感じになりました。

 

 

来年について

 

来年も引き続き、色々と試行錯誤をしてみたいと思います。

 

色々とやりながらも、意外と真面目に働いていたので、ある程度余裕もできてきました。なので来年は、もっと実験的な仕事やプロジェクトにも参加してみたいと思います。もし何かありましたら、是非お気軽にお声がけ頂ければと思います

 

今年一年ありがとうございました。

来年もどうぞ宜しくお願いします。

 

良いお年を…!

 

原鉄道模型博物館のアプリをブレーンに掲載いただきました

 

カヤックで最後に制作をお手伝いさせていただいた原鉄道模型博物館のアプリ、今月のブレーンのコーナーにて取り上げて頂きました。

 

f:id:theodoorjp:20140411221744j:plain

 

うっかり Amazon で表記が "2104 年号" になっていますが(現時点)、面白そうな記事がたくさん載っている号なので、ぜひ手に取った際に発見していただけると幸いです。

 

ブレーン 2104年 5月号

ブレーン 2104年 5月号

 

 

どちらかというと、あまり計算せずに作りたいものがそのまま形になったタイプのアプリですが、こうして取り上げてもらえるとうれしいですね :-) 

 

 

面白法人カヤックを退職し、独立しました!

 

3 月末を持ってカヤックを退職し、独立しました。

 

f:id:theodoorjp:20140403002809j:plain

 

まだ 20 人くらいの規模のカヤックに、軽い気持ちで入ってから期間にして 8 年半。

 

団体行動が苦手な人間としては、かなり長い間働いていたことになりますが、それも一重に、優秀なメンバーに囲まれて働くのが楽しく、いつか独立しようと思うものの、それが伸びに伸びてしまった感があります。

 

退職後はセオ商事として、しばらくフリーランスで活動をする予定です。

 

いくつか勉強したいこともあり、また 30 代も中盤になり 1 クリエイターとして、もう一度手を動かしながら色々と作ってみたいという気持ちが高まったため、独立させてもらいました。会社としてはこれからが中々楽しみな時期ではあったのですが、気持ち良く送り出していただいて感謝しています。

 

妻の会社を少し手伝うという話しもありますが、年度末の案件が忙しく、今後の予定など準備を何もできない状態のまま独立となったので、何かありましたら、是非お気軽にご連絡いただければと思います。またカヤックとも引き続き仕事をいくつか続ける予定なので、どうぞよろしくお願いします。

 

会社で盛大にお別れ会をしていただいたのですが、普段あまり人を感動させたり、ためになるような話しをするスキルを、あいにく自分は持ち合わせておらず、、どちらかというと全力で尊敬されないよう努力をしてきたのですが(端的に言って、良く分からない面白おじさんと思われることを目指していました)、「作ったものでしか、人は評価されない」という、珍しく自分としては良いことを言った言葉が「心に残った」と後輩に言ってもらえたので、自分の思い出の一環として、紹介できるカヤックで制作したもののうち、いくつかを以下に紹介させて頂きたいと思います。

 

(企画、実装をおこなったものを中心にピックアップさせて頂きました)

 

- Flash Developer 時代 -

 

Flashで作る AIRアプリケーション レシピブック」

 

最初は Flash Developer としてエンジニアをしていたのですが、当時作ったものは殆ど残っていませんでした。。

 

Web Desining で連載していた Air の記事が単行本化されましたが

 

Flashで作る AIRアプリケーション レシピブック (Web Designing BOOKS)

Flashで作る AIRアプリケーション レシピブック (Web Designing BOOKS)

 

 

 

残念なことに、AIR があまり盛り上がらず会社で最初に絶版になった本になってしまいました。(関係者の方々、その節はすいませんでした。うぅ…><)

 

 

「閃考会議室」

 


 

当時の SFC の稲蔭研究室と産学連携で開発したインタラクティブ会議室。自分はエンジニアとして参加させてもらいましたが、助成金の申請をしたり、リリース後に様々なメディアに取り上げられ、思えばこのときに自分の中で、色々と新しい扉が開いた気がしました。自分に取ってまだ知らないインタラクティブなデバイスのノウハウや、アイデアをいただいた植木さん始め、一緒に制作していただいたメンバーに感謝です。

 

 

「今日の緑さん」

 

f:id:theodoorjp:20140402233330j:plain

 

「閃考会議室」の反響に気を良くして、当時 SFC の田中浩也研究室で植物をインターフェースとしたデバイス制作をおこなっていた、栗林さんと一緒に制作したプロジェクト。恐らく、植物と Web をつなげた最初の事例かと思います。ロイター通信に取材していただき、知らない間に BBC の番組で取り上げられたり、世界中の Yahoo! Topix に取り上げられた結果、WBS の取材中にサーバが落ちるなど、楽しい思い出で一杯です。

 

Chumby(懐かしい!)をインタフェースに、葉っぱに触ると記念写真を取れるなどギミックが満載でした。会社のカフェの宣伝用に制作したのですが、TIAA ブロンズも受賞できました。

 

 

- iPhone 時代 -

 

「GravSynth / SynthProbe」

 


SynthProbe with Kaossilator - YouTube

 

iPhone 3G が国内発売され、社長の「何かつくって」の言葉を「何をつくっても良い」と曲解して作成したシンセアプリ。当時、勉強していたリディアンクロマチックコンセプトを組み合わせ、傾けるとシンセのフィルターとアルペジエーターの音階の調整引力が変わるという個人的にはやり切った感のあるアプリです。

 

売上としては、あともう一歩なところだったのですが、音楽が趣味なので、この路線はまた掘り下げて行きたいと思っています。

 

「Let It Sleep」

 


Let It Sleep - iPhone app - YouTube

 

当時、夢を録画するということに執着していて「寝言は録音できるけど、夢は録画できない」と煮詰まっていたところ、ふと「寝言の録音でもいいじゃないか」ということに気づいて作成したアプリ。

 

時を同じくして、遠い親戚にオノ=ヨーコさんがいるということに気づき、このような表現になりました。Android 版を AU KDDI の CM で取り上げていただいたり、NHK の IT ホワイトボックスで取材頂いたりと、調子に乗っていたらストアのランキングで後発のサービスに抜かれるなどの思い出深いアプリです。最新版はカヤックの若手の優秀なエンジニアにリニューアルしてもらいました。ストーリーや世界観を考えながら作るのが今でも一番好きです。

 

 

「IdeaPod / Lonely Idea」

 

f:id:theodoorjp:20140402235241j:plain

 

何気に発想ツールは閃考会議室はじめ、結構な数を作っていました。今ではブレインストーミングのワークショップをすることもたまにあったりですが、当時はブレストになんとなく苦手意識があり、反動で作っていた気もします。

 

ブレストについて色々と教えて頂いた IDEAPLANT の石井さんと作成した IdeaPod、KJ 法とマンダラチャートを組み合わせた Lonely Idea など、たまに使っていると言ってくれる人がいてうれしかったです。

 

 

- クライアントワーク時代 -

 

カヤックでの後半は、クライアントと一緒に何か面白いものを作れないかと考えるようになり、クライアントワークチームで制作を主に行うようになりました。

 

「仙台営業中!でかけよう。Googleプレイス」

 

f:id:theodoorjp:20140402235543j:plain

 

震災直後、仙台で行ったキャンペーンのクリエイティブディレクションを担当しました。Web だけでなく、OOH 含め、自分としては初めての規模のキャンペーンだったのですが、大きな転機となった案件です。未だ震災については上手く語ることができないのですが、その後、東北関連の案件をいくつかお手伝いさせていただくことができました。

 

 

ちなみにこちらはキャンペーンで制作した android やデバイスを組み合わせ、Google Map を利用した少し未来の案内版。東北六魂祭に合わせて仙台駅に設置しました。その後、Google Japan オフィスや GDD、九州のキャンペーンなど、色々と旅をさせて頂きました。

 

 

Microsoft "もしもソフト"」

 


もしもソフト 〜 「もしもカフェ店長がソフトをつくったら?」 - YouTube 

 

Microsoft の開発者向けのカンファレンスで、Microsoft の新しい技術を紹介するというブランディングコンテンツです。テクニカルなガジェットを制作して、それをビデオにおさめるという手法に挑戦してみました。kinect .NET Micro Framework、windows8 を利用し、もし DIY なサイネージをカフェの店長が作ってみたら?というコンテンツになりました。

 

この案件以降、企画書で "もしも〜" というキーワードをよく使うようになった気がします。

 

 

 「Google "ごちそうフォト"」

 

f:id:theodoorjp:20140403000047j:plain

 

実はコミュニティサイトをつくることに苦手意識がかなりあったのですが、Google+Local のキャンペーンで、みんなに食べた料理を Google+ に上げてもらい、Facemash 方式に投票をするというサイトを作成したら、多くのユーザに楽しんでもらうことができました。

 

そろそろ 3 年目に入るかという息の長いキャンペーンになりました。デバッグ中はずっと料理写真ばかりを見て、空腹時にはかなり辛かったのが楽しい思い出です。

 

 

原鉄道模型博物館 iPhone アプリ ~ シャングリラ鉄道の旅」

 

 

カヤックでの最後の 1 年は、ディレクターのチームリーダーとして売上の管理をしたりプロデューサー的な仕事が多かったのですが、合間を縫ってコードを書いたアプリ。

 

同じオフィスビルにある原鉄道模型博物館のアプリを制作させていただきました。ものすごいクオリティの鉄道模型に囲まれながら、GoPro で撮影したり夢のような仕事でした。テンションが上がって、デザイナーと一緒に書いたポエムをアプリに入れたところ「もう少しマイルドな表現で…」とクライアントにご指摘頂いた時が MAX に恥ずかしかったです。

 

--

 

思い出すと、紹介したいものが他にもまだ沢山あるのですが、これから作ってみたいものも同じく多くあるので、まずはここ 2 年ほどさぼっていたコーディングのスキルを取り戻しながら、色々作って行きたいと思います。

 

それにしても一介のエンジニアとして入ったカヤックでは、色々な経験をさせてもらって、本当に感謝しています。

 

何はともあれ、まずは新しいサイトや名刺などの準備をしないといけないので、準備ができたところで、またこのブログで紹介させてもらいたいと思います。

 

今後とも、セオ商事をどうぞよろしくお願いします。

 

クリエイターが、アスリートを目指して学んだこと

 

よく

 

"クリエイターはアスリートでないといけない"

 

と言う話しを聞く。その度に自分は、

 

「アスリートになれないからクリエイターを目指したのに…!グニャ〜ッ!!(こぶしを突き上げながら脱力)」

 

といった態度を示してきたが、これは、そんな私が走ることでアスリートを目指した話しである。

 

 

年のせいか、週に 1 回のビリーブートキャンプで間に合わないほど体重が増えてきたので、ランニングを始めようと思ったのは 2 月の中旬。

 

 

しかし、シューズなど色々と揃えないといけないし、、、そう渋っていたら、会社の後輩に「そんなんユニクロでいいんすよ。走るなら イマデショ!」と激を飛ばされ、その日のうちにユニクロでパーカーとスウェットパンツを購入。シューズはワゴンセールのナイキをゲット。あっという間に Just Do It 体制が出来上がった(ソーシャルゲームで言うところの、無課金ユーザのような装備であるが、これは後に全身 GU にアップグレードされる)。

 

 

いざ始めてみると、なまっていた体を叩き起こし、朝早くに外をランニングするのはなかなか爽快だった。たった 3km のランニングでも、普段と違う日常と時間の使い方に興奮を憶えた。律儀にビリーブートキャンプを 5 年間かかさず行っていたせいか、思ったより走れたのはうれしい発見であった。その結果、少しずつ距離を伸ばし、だいたい 1 日おきに 5km 走ってから会社に行く生活を 1 週間ほど続けた。

 

 

3 月に入り、さらなるモチベーションアップのために nike+ で会社のメンバーと 3 月の総走行距離を競うことを思いついた。大体ここから、話しがエスカレートする。

 

 

レベルが離れないように、あまりアスリートっぽくない人を集めたつもりが、どう誤ったのか、元陸上部や週末に 10km ずつ走っている社員など、なかなかハイレベルなメンバーが 12 人も揃ってしまった。引きこもりがマジョリティーの会社において、とんだ誤算である。

 

 

しかし総走行距離を競うと言うのは、単純な体力というより常日頃の努力、強いて言えば精神力を競うレース。体力で負けても、クリエイターとして精神力で負ける訳にはいかない。密かに、絶対に勝つことを心に誓う。

 

 

いざレースが始まり、一番最初に思い知ったのは競争が市場を活性化するという事実だった。初日の金曜日に 5km 走り、土曜日に 10km のランに挑戦。これで充分だろうと日曜日の朝、筋肉痛とともに目を醒ましたらトップのランナーの走行距離が 25km に達していた。初心者といえども、スタートダッシュで負けるわけにはいかない。痛みに耐えながら、さらに 10km を走ることとなった。

 

 

最初の週は、強いて進化の歴史で例えるのならば、さながらデボン紀の海の生態系のように様々な走り方が試された。平日の夜中にいきなり 20km 走るランナー。毎日コンスタントに 5km ずつ距離を積み上げるランナー。とても決算期とは思えないブッコミ。自分はというと、最初の 3 日間で足首を痛めてしまったが、だましだまし走りながらもなんとか先頭集団に追いつくことができた。

 

 

さすがブラック企業の申し子達。みな良く走りおるわい。ククク…!」と嘯きながらも、どうやら精神力だけでは勝てそうにないことに気づいた。これには勝つための戦略が必要だ。

 

 

第二週目に入り、それぞれのランナーのペースが決まって来た。自分がとった作戦は「早いカメ」。まだ体が出来ていないので長距離は走れないが、コンスタントにカメが出来る限りの速度で距離を伸ばすというもの。レース期間中に筋力をアップさせるため、負荷をかけて 2 日間で 15km 走り 1 日休むというサイクルを設定した。これで月間 150km ペース。レース前の予想では、100 〜 120 km あたりがトップ争いになるだろうと言われていたが、現在のペースを考えると、トップ争いは 150km に及ぶと予想された。これでトップ争いに参戦できる。

 

 

ところで、ランニングを始めると健康体になり、朝から脳が活性化して日中の集中力も高く仕事のメリハリがつくと言われている。まるで悩み事の 8 割が消えてなくなるような触れ文句であったが、現実的には悩みが 8 割増しになった。常に足のコンディションを気にし、睡眠時間を削って走り、体調的には肉体の限界方面に振り切った感じである。もちろん、3 月は期末の納品が忙しい。休日に走ってから出社するということもあった。メンバー一同、もはや誰ひとりとして健康のために走っていないのは明白であった。

 

 

「手段と目的が入れ替わっては意味がない」と言う人がたまに現れるが、それはもったいない話しだと思っている。手段と目的が入れ替わったタイミングこそ面白く、凡人が唯一、天才の領域に足を踏み入れられる瞬間だと思う。こうして人は、狂気を獲得していくのである。

 

 

レースも中盤を越えたところで、休日にフルマラソンの距離を走ってくる猛者が現れ(I 君)一気に抜かれた。一度に 10km しか走れない自分は、最終的に彼と 30km 近くの差をつけないとラストスパートで抜かれることになる。レース後半の集中力が緩むところで、気づかれないようにランニングのペースを上げることにした。2 日連続で 10km ずつ走って、一日休むというペースだ。これで月間 200km ペース。

 

 

それにしてもなぜ、人は走るのか。色々な側面があるが、普段ものを作っている身としては、何かしらフィジカルなフィードバックを欲していたのかもしれない。ものづくりをしている際、手を動かしている時間は長時間に及ぶが、その間にはだらだらしたり、行き詰まったり、そういう時間も多く含まれる。例えば野球の試合や外科手術のように、もう少し短い時間に集中力を高めて何かを成す体験を欲していたのかもしれない。ものを作り続ける活動には、そういった凝縮された一瞬が少ない。

 

 

最終的にレースの終盤は、フルマラソンの距離を走る I 君と、毎日走って通勤する Y 君とのトップ争いになった。自分は大人の狡猾さを利用し、最終日前日に溜まっていた代休を取り 20km を走った。しかし翌朝、筋肉痛と関節痛が過去最大のものとなり走れず、Y 君に抜かれてしまい 2 位での終了となった。総走行距離 157km となった(1 回 nike+ の不調で 10km 計測失敗に終わったのが悔やまれる。しかし、それを走っていたらヤマト君はそれ以上走っていただろう。精神力のある若い人が出てきて心強い)。

 

 

ランニングを本格的な趣味として取り組んでいる人には遠く及ばないが、初めて走り始めた人間としては割とがんばった方ではないかと自負している。走ることが出来る限り、ランニングを続けていきたいという気持ちが自分の中に芽生えた。

 

 

不思議なもので、ある行為のモチベーションはある行為の中で生まれることが多い。走らなければ、走りつづけようと思わない。例えば、戦争を始めなければ戦争を続けたいと思わないし、お金を浪費しなければお金を浪費したいと思わない。良いことも悪いことも、本来的にはそれほど多くの理由がないまま続けているからこそ、続いているのである。人類の営為そのものとも言える。だから、何かを始めようと思うものの、モチベーションが見つからないなら、とりあえず初めてしまうというのも一つの手段といえる。

 

 

さて、冒頭にあったクリエイターがアスリートを目指したところで何を得たか。難しいところであるが、こんなことを走りながら考えていた。

 

 

自分は大体、毎日同じルートを同じように走っていた。反復を繰り返すことで、自分の状態を出来るだけ詳細に観察したかったのである。昨日より 10 秒早く公園に辿り着いたとか、最後の 2km で自分はいつもスピードが落ち始めるとか、細かくフォームを変えたときの疲労度の変化など。

 

 

ただ、漫然と走るのではなく反復作業のなかでどれだけ作業の解像度を高め、そこからの気づきを得られるか。かねてより、物を作る際の集中力というのは、どれだけ多くの気づきを得て、それを現実のものとして形にできるか。ということだと思っている。意外とアスリートの集中力も同じものかもしれない。どれだけ多くの気づきを実行に移せるか。それがクリエイターとアスリートに共通する部分だと自分は理解した。

 

 

その集中力を、身をもってフィジカルに思い知らせるために走るのはとても有効だという感想をもって、本エピソードを終わらせたいと思う。

 

 

# 1 ヶ月後、膝の調子を悪くして医者に 3 ヶ月ほど走るのを止められました。ランニングは計画的に!