2016年 今年聞いてよかった新譜ベスト10 + α

今年はいつになく新譜を良く聴いた一年でした。そうすると雑誌でもWebでも、いろんな人の「今年の10枚」を見るのが楽しくなってくるのですが、自分も思い切って10枚選んでみました。

 

30代の中盤も過ぎると、新譜を盛んに聴いている人がどんどんと周りからいなくなって寂しいのですが、ここ数年は新譜を聴くのが本当に楽しいので(実際に身の回りの音楽好きの人もよく言っています)、ぜひ聴いてみることをオススメします。

 

以下、ベスト10です(順不同)


1. KING - We Are King

ブラックミュージックと、ヴァイパーウェーブ的な音像が融合した唯一無二の音世界に圧倒される。ロボットボイスのフィルや、CGで描いた地平線がどこまでも続いていくようなシンセ(この表現伝わるでしょうか??)にほんのりとポストインターネット感が漂います。どれも似たようなテンポ感で飽きそうなのだけど、アレンジやメロディーが多彩でいつまでも聴いてられるアルバムでした。


KING - The Greatest

 

2. KNOWER - Life

いきなり作品を聴いても伝わらないところがあるので、まずこのLouis Coleのソロ作(これはこれで名盤)を聴いていただきたい。


Below The Valleys - Louis Cole


一見繊細そうなシンガーソングライターに見えるのだけど、どういうわけかこうなってしまったのである。


THE GOVT. KNOWS - KNOWER

ちなみにKnowerは普段、Louis Coleは歌でなくドラムを叩いたりシンセを弾いており、アメリカ国旗の衣装を来ている女性の方がボーカルを担当しています(Snarky Puppyに参加するなど魅力的な声の持ち主です)。ライブで見たときは最低な感じの自作映像(実物を見れば分かるけれど褒め言葉)をバックに炸裂する、Luis Coleの超絶ドラムや高速シンセベースさばきに度肝をぬかされました。

 

3. Robert Grasper Trio - Art Science

実はBlack Radioに今ひとつノレなかったのだけれど、Double Booked以来の抜けた感じがうれしい。4曲目の"No One Like You"など、ポップな曲のなかにもジャズ的な即興演奏がしっかり入っていて、これは絶対盛り上がるのでライブで聴いてみたい。


Robert Glasper Experiment - Day To Day (Audio)

 

4. Blood Orange - Freetown Sound

今年は急逝される人がたくさんいたのですが、Princeが去ってしまったのが何よりショックでした。ただPrinceのエッセンスを継承した素晴らしいミュージシャンがたくさんいるのが何よりの救いです。その中でもBlood Orangeの新譜はとても良かったです(Bruno MarsやDornikがマイケル派とすると、D'AngeloとBlood Orangeはプリンス派な気がします)。いまどき、ビデオが毎度かっこいいのも良いですね。


Blood Orange - Better Than Me (Official Video)

 

5. 宇多田ヒカル - Fantome

いやぁ、良かった(感動のあまり思考停止)。この調子だとシン・エヴァンゲリオンの主題歌も歌ってくれそうです。


宇多田ヒカル「真夏の通り雨」(Short Version)

 

もし、海外版のエヴァに別の主題歌があるとしたら、是非Thundercatと一緒に歌うと良いんじゃないかなってずっと思っているけれど、誰にも言うタイミングがなかったのでここに書いておきます。(Thundercatはエヴァ好きで、Evangelionというそのままなタイトルの曲もある)


Thundercat - 'Heartbreaks + Setbacks'

 

6. Brad Mehldau Trio - Blues and Ballad

ジャズだとBrad Mehldauが特に良かった。いわゆる現代のブラックミュージック由来のものでなく、昔からあるジャズのフォーマットで現代的なエモーションを描くのが一番うまいのはBrad Mehldauだと思う。例えばビートルズの「And I love her」も、リハーモナイズを始めアレンジの手腕と演奏力でこれだけ新鮮な表現にしてしまう。今作では過去のトリオ作品ほど弾きまくっているわけではないのだけど、あえて抑制を効かせた上でこそ響くフレーズが素晴らしく、新境地を感じました。(個人的にはCole Porterの「I Concentrated on You」がベストトラックでした。是非アルバムで聴いて欲しいけれど、ジャズを聴き慣れていないと1曲目のブルースバラードで寝る可能性があるので注意)


Brad Mehldau Trio - And I love her

 

7. Qebrus & Qebo / Earth and Egnamis Alliance - EP

Bjorkが来るかも」という風の噂につられて、久々治安が悪めなクラブで見たArcaのパフォーマンスがなかなか衝撃的でした。QebrusはOPNやArcaに続く「なんだこれ」な衝撃サウンド。ちょっとスカムな感じもあって一瞬ひるんだけれど、読めない字で書いたプロフィールとか、その他の謎設定を見ると「単純にエイリアンが好きなおじさん」という人物像が浮かび上がり、好感度上昇です。


Qebrus & Qebo - Helios

 

8. Kan Sano / k is s

富田ラボと悩んだのだけど、良く聴いた(現在進行形で聴いている)ということでこちらを選んでみました(なんという上から目線...)


Kan Sano / C'est la vie feat. 七尾旅人

 

9. Floating Points / Kuiper

今となっては「ジャズ × テクノ」という組み合わせだとありきたりな感じもしてしまうけれど、そこにプログレを注入すると、一気にまた面白くなってくることが分かりました。ライブ見たかったなぁ。これがきっかけで、人知れずプログレの名盤を聴いたりしてました。


Floating Points - Kuiper (Live on KEXP)

 

10. Nels Cline / Lovers

フリージャズの人がたまに出す正気のアルバムが好きです。Cibo MattoのHonda YukaさんやJulian Lageが参加しているのも良い。ポストクラシカル的なストリングアレンジが効いて、古い曲を取り上げても今ならではのサウンドになっているのが新鮮です。こころなしか、Jerry MuliganのNight Lightsを想起させたりもします(あちらはボサノバのアルバムだけど)。


Nels Cline - I Have Dreamed

 

その他、今年良く聴いたもの(新譜以外含む)

Ólafur Arnalds / Alice Sara Ott – The Chopin Project

ポストクラシカルで今年一番聴いたアルバム。「演奏者がかわいくて好みというきっかけで未開拓の音楽を聴く」おじさんにだけは決してなるまいと思っていたが、信念が揺さぶられた。もちろん内容も最高です。クラシックは音の強弱が大きすぎて作業しながら聴くのになかなか向いていない作品が多いけれど、そういった点でも非常に良く、ずいぶんと仕事中に重宝しました。


Ólafur Arnalds, Alice Sara Ott - Verses


Jordan Rakei - Cloak

いわゆるグラスパー以後のサウンドの中で、アルバム通してのクオリティが今年一番高かったです。


Jordan Rakei - Rooftop (Official Music Video)

 

Liss - Try

早くアルバムを出して欲しい。これで10代なのかぁ。まったく新しい感じのバンドサウンドでかっこいいです。


Liss - Try

 

D.A.N. / D.A.N.

それほど聴きこまなかったけれど、Yahyelとあわせて「これが日本のバンドなのか...」と驚きました。


D.A.N. - Zidane (Official Video)

 

CRCK/LCKS

演奏のうまさと青春のスピリッツが眩しい。またライブ観たいです。


「Goodbye Girl」PV CRCK/LCKS (クラックラックス)

 

Punch Brothers / The Phosphorescent Blues

トラディショナルな音楽フォーマットでありながら、懐古趣味に走らず今の音楽をしっかりと表現しているところが感動的。あとマンドリンがすごい上手い。ブルーノート公演行きたかったな。


Punch Brothers - I Blew It Off (Live on 89.3 The Current)

 

Soggy Cherios / EELS & PEANUTS

カーネーションとか全然通ってことなかったけれど、とにかくこの曲の冒頭のコーラスであっという間にもってかれてしまいました。今年の正月によく聞いてました。


Soggy Cheerios - あたらしいともだち MV

 

Raury / All We Need

曲にアコースティックギターストロークが良く登場するところとか、デヴィッド・ボウイの曲を弾き語ったSeu Jorgeを一瞬想起させるけれど、そこにスパニッシュのエッセンスや現代のビートが合わさってオリジナリティ溢れる音楽になっています。タイトルトラックがもちろん良いのですが、個人的にはこちらの曲がエモさ爆発で良く聴きました。Frank Oceanの新譜も良かったけれど、こちらの方が好みにあいました。


Raury - CPU (feat. RZA) #RMusic

 

キリがないので、以下一言コメント。 

Diggs Duke / Because You're so Wonderful

「どの曲もいまひとつ完成していない雰囲気」という謎感がクセになる人の新作。JTNC界のモンク的なポジションにも聴こえる。

 

Hazama Miho / タイム・リヴァー

ライブ良かったので、Mayden Voyage Suit音源化してほしいです。

 

Halo Orbits / Halo Orbits

Mark GuilianaがBuffalo Daughterのメンバーとロックアルバム?聴くに決まってる!ライブもみたいなぁ

 

Seiho / Collapse

Seiho、Kan Sano、松下マサナオのライブを見逃したのが悔やまれる...。

 

番外編

書籍 : 誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち

音楽関連の本だとリー・コニッツの本も面白かったけれど、サスペンス的な構造で90 - 00年代の音楽産業の裏を描いた本作はとても面白かったです。

誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち (早川書房)

誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち (早川書房)

 

 

 映画:Sing Street

「バンド経験者だったら絶対泣く」映画を作りつづけるジョン・カーニーの新作。80年代のアイルランドの雰囲気や、今まで気づかなかった当時の音楽の魅力が伝わって良いです。なにより、ホール&オーツのManeater風のリズムで始まるこの一曲が、80年代のどの曲より素晴らしく聴こえてヘビロテでした。映画は2回見ました。(うち1回は立川の極音上映)

ちなみに音源も当時のようにLPで聴くと、なおムードが高まっておすすめです。

 


Sing Street - Drive It Like You Stole It (Official Video)

  

 

以上が今年記憶に残った新譜でした。

 

ちなみに「どうやって新譜を探しているの?」と聞かれることがあるけれど、もっぱらmikikiディスクユニオンブログ(たまにお店でCD買ってます)、あと人づてやラジオと雑誌で見つけるのが多いですね。

 

体力残っていたらジャズ限定の新譜ベスト10などもやってみたいですね。